〜明治神宮における舞楽について〜 (私が書いた2004/4/29に奏される舞楽についての説明です。)
1、舞楽とは
 雅楽を伴奏とする舞踊のこと。その大部分は平安時代に完成され、雅楽を専業とする楽人によって今日まで伝えられてきた。伴奏の違いにより、いくつかの分類がなされる。ここでは、今回に関するものだけを紹介することとする。
 左方舞(さほうのまい)…唐楽を伴奏音楽としたもの。
 右方舞(うほうのまい)…高麗楽(こまがく)を伴奏音楽としたもの。なお、唐楽の夜多羅拍子の《陪臚》、《抜頭》、 《還城楽》は右方に配される。
 左右それぞれに二十数演目あり、両者は単に音楽が異なるだけでなく、舞の形、舞人の登場の法、面、装束、など舞楽作法全般にわたって、対照的な違いがみられる。左方専門の舞人と右方専門の舞人がおり、現在でも、楽器は左右どちらの演目も同じ人が奏するのに、舞はどちらか一方を専門としている。番組編成に関しては、左右の舞を舞姿の似たものを取り合わせて、対にする〈番舞〉の制がある。舞楽の奏演の次第は、《振鉾》の後、番舞を奏し、最後に唐楽の《長慶子》を舞をつけずに舞楽奏(舞楽の時の管楽器の吹奏形式のこと)で奏するのが正式である。

2、今回の舞楽の演目ついて
《振鉾》
 振鉾三節の舞は、周の武王が中国を平定し、天神を祀り(一節)、地祗を祀り(二節)、祖先を祀った(三節)という故事に基づくという説が『楽家録』に紹介されている。一節、二節、三節とあり、一節は左方の舞人が、二節は右方の舞人が、三節は左右両方の舞人が舞う。この第三節を〈合鉾〉という。舞人が鉾を手に舞台に上がり、鉾を振り、天の神(一節)、地の神(二節)、先祖(三節)を祈って、舞台を浄める舞である。古くは口中で寿文を唱えたという。楽曲形態というものはないが、舞振りに合わせて、笛・打楽器が奏する、定まった演奏形態を持つ曲である。舞楽の正式番組は必ずこの曲で始められる。

《打毬楽》
 唐楽、左舞。番舞は《埴破》。中国の黄帝作というが不明。また、胡の国で球を打ち遊ぶ時、馬上で演奏する曲ともいう。仁明天皇の頃伝えられ、その後改作されたらしい。〈太食調調子〉、〈当曲〉、〈太食調調子〉の三章からなっている。〈太食調調子〉で、舞人が登台し、〈出手〉を舞い、所定の位置につく。続いて、〈当曲〉。〈換頭〉を持つこの曲を四辺(四帖)舞う。舞の中で舞台に置かれた五彩の玉の周りで一臈が舞う〈玉撥手〉は特に優美で、王朝時代の公家方が球遊する様を偲ばせる。〈当曲〉が終わり、〈太食調調子〉が奏されると、〈入手〉を舞い、四臈が舞台中央に置かれた玉を懐に入れ、順に降台し、全曲終わる。四人舞。

《還城楽》
 唐楽。番舞は《林歌》、《抜頭》、《八仙》、《納曾利》。唐の明王が兵を挙げて、韋后を討ち、京師に戻り、この曲を作ったという。以後、《還城楽》と号して、宗廟でこの曲を奏すると、明王の霊が〈蛇〉となってあらわれ、これを喜んだという。この曲は、同じ楽曲で左方・右方と二つの舞がある珍しい曲で、左方舞のときは只拍子(2+4の交互拍子)で舞い、右方舞の時は夜多羅拍子(2+3の交互拍子)で舞う。〈新学乱声〉〈陵王乱序〉〈還城楽音取〉〈当曲〉〈案摩乱声〉と五つの部分から成り、〈陵王乱序〉の後半に蛇を見つけて喜び飛び跳ねる様を模した振りに、〈鹿婁〉という珍しい打楽器の拍節がある。楽曲形態は、まず〈新学乱声〉、次に〈陵王乱声〉にて舞人が楽舎を出て登台し、〈出手〉を舞う。次に〈還城楽音取〉、次に還城楽の〈当曲〉。舞人のほか、〈蛇持〉といい、木蛇を乱声の中で、舞台まで捧げ運ぶ演者がいる。装束は別装束で面・牟子をかぶり、右手に赤い桴をもつ。乱序の中で舞台中央に置かれた蛇に近づき、蛇を掴むと乱序が終わり、当曲へ続く。律動感溢れた曲である。一人舞。

《長慶子》
 唐楽。舞はない。平安中期の竜笛と琵琶の名手として知られる源博雅によって作られたと伝えられている。節会や舞楽会の終わりに〈退出音声〉として奏されるのがならいである。その時は於世吹になり、速度が上がる。慶賀の意をあらわしている曲とされ、番組の最後に奏されることが多い。明るく軽快なその旋律ゆえ、〈退出音声〉にもっともふさわしい曲と言える。唐楽曲ではあるが、林邑楽の香が少しする旋律と、打楽器の変わった用法(左方では羯鼓、右方では三ノ鼓を用いる。)が特徴である。

3、雅楽用語について
 今までに出てきた雅楽の言葉の中でもっとも基本的なものを紹介します。
・右方舞(右舞)…右方高麗楽に属する舞楽。左方唐楽の舞楽と対照をなす。伴奏楽器は、高麗笛・篳篥・大太鼓・大鉦鼓・三ノ鼓。管楽器は特に〈舞楽吹〉をし、拍節感を明瞭にする。右方舞の作法としては、前奏曲の後、当曲(舞楽中心となる曲)で舞人が登台し、続けて舞い始める。舞い終わって、舞人が降台したのち、当曲を奏し終えるものが多い。左方舞に比べて、全体に動きの静と動の区別が明瞭である。装束は緑が基調。

・左方舞(左舞)…左方唐楽に属する舞楽。右方高麗楽とは対照をなす。伴奏楽器は、竜笛・篳篥・笙・大太鼓・羯鼓・大鉦鼓(琵琶・筝は管弦舞楽の時のみ用いる。)管楽器は特に〈舞楽吹〉をし、拍節感を明瞭にする。左方舞の作法としては、登場楽(その前に前奏がある場合もある)で舞人が登台し、当曲で舞い、退場楽で降台するのが一般的。右方舞に比べ、全体的に曲線的な動き。装束は赤が基調。

・番舞…舞楽の時の左方舞と右方舞の組み合わせ、またはその舞。舞楽奏演は正式には、《振鉾》に始まり、左右の舞を数番演じ、最後を《長慶子》奏楽で締めくくる。この時、舞楽の組み合わせは、《迦陵頻》(左)に《胡舞》というように、舞姿・曲品などのつりあいのいいものが配当される。


〈参照文献〉「邦楽百科事典」
      「雅楽―僕の好奇心」東儀秀樹著 集英社新書
      「演劇百科事典」
   
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